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気まぐれバーテンダーのカクテル・ポエム

■「星座」65号巻頭随筆。「ことばにまつわるエッセイ」というテーマで書いたもの。

 

 「ジュニアバーテンダー・カクテル・コンペティション」という大会をご存知だろうか。全国の若手バーテンダーが一同に会し、オリジナルのカクテルをひっさげてその腕を競うのである。その様子はyoutubeにも映像がアップロードされている。

 その映像を見るとプロバーテンダーの見事な手さばきに惚れ惚れとさせられるが、それ以上に気になるのがカクテルを作っているバックでナレーターが読み上げている「創作意図」だ。例として、第十六回大会(二〇一一年)の優勝者である大阪の京中武将氏(BAR YOSHIDA)の「創作意図」を紹介しよう。

 

 

カクテル名『Foce(フォーチェ)〜港〜』

古き良きイタリアの港町。高らかに飛び交うカモメたち。

人々の夢をのせた船が出航の時を待つ……。

フォーチェ〜悠久の時間の中にたたずむ美しき風景。

 

 これはえーと……ポエム? ベタな表現だらけだけど、「港町」「カモメたち」としっかり韻を踏んでいるし、響きは意外と悪くない。創作意図というからには、こういうイメージを伝えたくてオリジナルのカクテルを編み出しましたと表現しているのだろう。どんな味なのかはまったく想像がつかないが。ちなみにこれは、バーテンダーが自分でちゃんと考えるらしい。まさか言葉のセンスを試される職業だったとは。

 

カクテル名『ムーンライト・シンデレラ~月下美人~』

待ちわびた夜が訪れた時……月の光を纏い、華は静かに眠りから目を覚ます。

艶やかに舞いながら人々を魅了する~ムーンライト・シンデレラ~一夜限りの幻想の華。

 

カクテル名『Fontaine Wallace(フォンテーヌ ヴァラス)~ヴァラスの泉~』

乾燥したパリを癒す為に建造されたヴァラスの泉。

淡い緑の美しいデザインと、そこから湧き出す水は人々の乾いた都市生活を潤し続けている。そして、今宵あなたのハートも……

 

 こんなのが読み上げられていながらてきぱきとシェーカーを振り続けるなんて素人には到底できない技であるが、会場はいたって真剣で、笑いが巻き起こったりはしていない。私がその場にいたら間違いなく笑う。そして審査にあたっては創作意図の文面も評価の対象に含まれるのかがとても気になる。バーテンダー界のお偉いさん方が「ほほう、この比喩表現は素晴らしい」「イメージが目に浮かびますなあ」などとやりあうのだろうか。

 ソムリエがワインの風味を形容するときの詩的表現は有名だが、どうやら洋酒には全般的にポエム文化が根付いているらしい。酒と言葉とは昔から切っても切り離せない関係にあるのだから、当然のことなのかもしれない。じゃあ日本の酒文化を象徴するポエムって何だろうなあと居酒屋で考えていたら目に入ったのが、壁にかかっていた色紙。相田みつをもどきの筆文字でしたためられていたのは、「毎日毎日忙しいけど、酔っ払えれば立ち止まれるんだなあ。」そうか、これが日本式の「創作意図」だったのか……。